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東京高等裁判所 昭和52年(う)1910号 判決 1979年2月28日

被告人 磯崎清三郎

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人羽中田金一、同澤井勉共同作成名義の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に、これに対する答弁は、検察官親崎定雄作成名義の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから、ここに、これらを引用する。

控訴趣意書第一点の一、二及び控訴趣意補充書において

所論は、原判示第一の各事実につき、原審相被告人木下勘一は、不動産の売買あつせん等を業とする東京三信商事株式会社(以下「三信商事」という)の代表取締役として、昭和四三年株式会社大宮高島屋(以下「高島屋」という)が大宮市内の同社店舗用地の買収に当たつた際、同社より原判示の市有地(以下「市有地」という)を除くその周辺の土地の買収を委任されてその買収に当たり、「市有地」の払下については全く何らの権限も関心もなかつたから、「市有地」払下についての対市議会工作をする必要性は全くなく、もとより被告人に対し原判示の請託及び報酬金等を交付する理由もその事実もなく、他方、被告人としても、右木下からかかる請託や報酬金等を受け取つたことはなく、そのため対市議会議員工作をした事実もないのに、原判決は、任意性、特信性、信用性のない被告人の捜査官に対する各供述調書を採用したほか、信用性に疑いのある大成正雄、橋本善治、田口政雄、浅子正三、大沢五郎、森川理の捜査官に対する各供述調書を採用するなどして、被告人の受託収賄の事実を認定したのは、事実の誤認であり、ひいては法令適用の誤りをおかしたものであるというのである。

そこで、まず、所論指摘の各供述調書の任意性等について検討すると、所論指摘の橋本善治、大沢五郎、森川理の捜査官に対する各供述調書は、いずれも原判決が事実認定の証拠としては採用していないところであるから、その前提において失当であり、大成正雄、田口政雄、浅子正三の検察官に対する各供述調書の形式及び供述記載内容等を検討すると、その供述内容は、供述者が自ら経験し認識した事実がなければ語ることのできない事柄が具体的、詳細に語られていて、そこに不自然、不合理な点はなく、原審で取調べられた他の関係証拠と対照しても、その供述の真実性の高いことが認められ、その供述をするに至つた経緯等に関する供述者らの原審公判廷における各証言、ことに、右各供述調書の供述記載と異なる証言部分や、その異なるに至つた事由等に関する各証言部分は、同供述調書の供述記載と対比し、不自然、不合理な点があり、かつ、本件につき関係者間において偽証工作などしたのちの各証言であることなどを考慮すると、直ちに措信しがたいうえに、同人らと被告人との身分関係などをもあわせ勘案すると、右各供述調書の信用性に疑いをいれる余地はない。

次に、被告人の捜査官に対する各供述調書の形式及び供述記載内容等を検討すると、被告人は、本件で初めて逮捕、勾留されたこともあり、加えて、記憶の薄れや、自己の罪責の軽減を考慮するなどのこともあつて、供述が転々した点も見受けられないわけではないが、他方、過去を清算し更生するために真実を述べると語つて、自ら経験し認識した事実を率直に、具体的、詳細に語つている点も多く、被告人も、原審公判廷において、早く釈放されたいため、捜査官に対し、迎合したことはあるが、押しつけられたことはなく、供述調書記載のとおり語つたことは間違いない旨供述し、記録及び原審で取調べた他の関係証拠を検討し、当審における事実取調べの結果、ことに、被告人の当審公判廷における供述を参しやくしても、被告人の右各供述調書の任意性、特信性に疑いをいれる余地はなく、原判示事実にそう右各供述調書の供述記載の信用性に疑いをいれない。

そして、右各供述調書を含む原判決挙示引用の証拠を総合すると、被告人の原判示第一の各受託収賄の事実を認定した原審の措置は、優にこれを首肯することができるのであつて、この点に反する原審相被告人木下勘一、証人大成正雄の原審公判廷における各供述、被告人の原審及び当審公判廷における各供述、被告人及び木下勘一の捜査官に対する各供述調書の供述記載はいずれもたやすく措信しがたく、記録及び原審で取調べた他の関係証拠並びに当審における事実取調べの結果に徴しても、原判決の認定に所論のかしはない。すなわち、原判決挙示引用の関係証拠によれば、木下勘一は、不動産の売買、あつせん等を業とする「三信商事」の代表取締役として、従前から株式会社高島屋の店舗用地等の買収に関与し、同会社が大宮市進出を企図した際、その店舗用地の買収方を依頼されて、その買収に奔走し、昭和四三年三月同会社より大宮市長及び大宮市議会に「市有地」の払下陳情書が提出されたのちは、同会社代表取締役副社長河合正嘉と共に「市有地」の払下についても努力していたものであるが、同年五月ころ大宮市長の紹介で当時大宮市議会議員であつた被告人と知り合い、同人についても右払下につきその協力方を依頼し、あわせて「市有地」の近隣に存した被告人管理の株式会社丸合青果市場所有地の買却方を交渉し、その後被告人らと折衝を続けた結果、同年六月同会社所有地の買収に成功し、なお、「市有地」の払下について奔走するうちに、同月中旬被告人が同市議会議長に選出され、自らも、同年七月一三日「高島屋」が別個独立して設立されるや同会社の取締役に就任し、引続き右払下運動を強力に続けていた。他方、被告人としては、「市有地」の払下価格が高額でもあることなどから、市長の職務権限事項として右払下を単独処理することなく、慎重を期して、市議会にその払下をはかるのが相当であるとの見解を有していたところ、同年八月七日開催の大宮市議会総務委員会常任協議会及び同月一一日開催の同議会各派代表者会議において、市長から「市有地」払下に関する報告があつた際、同議会議員の一部から「市有地」払下については市議会の議決を経るべきであるとの有力な意見が表明され、当時、議員間においても同様の気運が強く生じていた状勢から、たとえ「市有地」の払下が市長の職務権限内であるにしても、右払下の件が市議会に議案として提出される可能性の高いことを予期し、右木下にもこのような状勢を知らせ、同人もそのことを十分了知し、被告人及び右木下の両名は、その場合、右払下議案が市議会で円満に可決されることを強く期待したのである。そこで、右木下は、対市議会工作をはかるため、同月二二日ころ、その資金二〇〇万円を用意したが、被告人が見当らなかつたため、これを茶封筒(わら半紙が入る位の大きさのもの)に入れて、被告人と懇親の仲にあつた大成正雄にこれを手渡して被告人への交付方を依頼し、その翌日ころ、右大成から被告人にこれが交付されたところ、自ら、これを確認するため、その翌日ころ被告人宅に赴いて、同人に対し、原判示第一の(一)の1の請託をして、その運動費及び報酬として右現金を交付したものであることを告げて、被告人の了解をえたのち、更に、「市有地」払下についての追加議案が市議会に提出されて可決されたのちの同年九月一八日ころ、被告人が右請託のとおり尽力したことに対する報酬として、同人に対し、同(一)の2の現金四〇〇万円(帯封の一万円札一〇〇枚束のもの四個)を交付するに至つたこと、他方、被告人は、市議会議長たるの地位にありながら、その情を知つて、同議長の職務に関し(なお、本件についての被告人の職務権限の点については、後記詳述するところである)、右各現金の交付を受けてこれを収受したが、その間、「市有地」払下の件が市議会に議案として提出された場合のことを考慮して、これを円満可決するには、うるさ型の議員に働きかけておく必要があると考え、事前にそれに該当すると思われる浅子正三ら数名の議員にその円満可決方の協力を依頼したうえ、右追加議案が可決されたのちの同年九月下旬以降、同議員らに対し、右木下より受領した現金のうちから一人当り三万円ないし五万円をその謝礼としてそれぞれに交付したことが認められるから、たとえ右浅子議員らが謝礼金をもらつたことで何らの処分をも受けなかつたとしても、原判決の認定を動かすものではない。してみれば、当時、被告人及び木下勘一の両名は、「市有地」の払下が大宮市長の職務権限内の事項であるにしても、それが市議会に議案として提出される状勢にあり、その場合、同議案の円満可決を強く期待して、対市議会工作の必要性、緊急性を考慮のうえ、被告人の市議会議長たる職務に関し、原判示の請託のもとにその運動費及び報酬として原判示の各現金を授受したものであるから、被告人に原判示の受託収賄罪の成立することは明らかである。もつとも、原審証人大成正雄、原審相被告人木下勘一、被告人の三名は、原審公判廷において、木下勘一は、当時埼玉県議会議員の大成正雄に対し一、〇〇〇万円を貸与するに当たり、同年七月一七日ころ手持現金の三〇〇万円を内金として同人に貸し渡したが、右大成は、差し当たりその金は必要がなかつたので、同人の後援会「大成会」の副会長をしていた被告人に対し、その内金一〇〇万円を同後援会費用に当てるため交付した旨各供述し、被告人は、当審公判廷においても、同旨の供述をしているけれども、大成正雄及び被告人の捜査官に対する各供述調書によれば、大成正雄が木下勘一から金員を借り受けたのは、同年一二月一三日ころ現金七〇〇万円、翌四四年一月三〇日ころ現金三〇〇万円合計一、〇〇〇万円を借り受け、そのつどその旨の借用書を差し入れ、右現金は全部右大成の居宅等の建築資金に費消され、被告人に「大成会」の後援会費用として現金一〇〇万円を交付した事実はないことが認められ、しかも、大成正雄及び木下勘一の捜査官に対する各供述調書によれば、同人らは、本件につき偽証工作をしていることが認められ、その後の公判廷における各供述であることなどを考慮すると、被告人ら三名の所論にそう右公判廷における各供述はたやすく措信しがたいばかりか、木下勘一が所論指摘のように各現金を支出したことに見合う関係帳簿等の記載があつたにしても、前認定事実に照らすと、その記載部分はたやすく採用しがたいのみならず、その記載金員が被告人に交付されたものと速断することはできない。また、貸付関係綴一綴(原審昭和四四年押第一四三号の一九)によれば、所論指摘の借用証、委任状、印鑑証明書等が木下勘一に差し入れられていることが認められるが、被告人の捜査官に対する各供述調書によれば、被告人は、原判示第一の(二)の各現金のほか、株式会社丸合青果市場の所有地を木下勘一に売却あつせんをした謝礼として、昭和四三年六月下旬ころ同人から現金五〇〇万円合計一、一〇〇万円をもらい受けたが、同年九月ころ、同人から、帳簿操作上見せかけのために必要だからといわれて、同人にいわれるままに内容虚偽の借用証三通を作成しこれを同人に交付したが、その数日後、更に、担保物件を入れたことにしてくれといわれて、同様の委任状二通に、印鑑証明書、権利証を添えてこれを同人に交付したものであることが認められ、これらの事実に、前認定の偽証工作のあつたことなどを勘案すると、右各書類が木下勘一に差し入れられているからといつて、原判決の認定を動かすものではない。独自の見解に立つて原判決の認定を非難する所論は採用しがたく、論旨は理由がない。

控訴趣意書第二点について

所論は、原判示第一の(二)の各事実につき、「市有地」の払下に関しては大宮市長の職務権限内の事項に属し、大宮市議会にはこれを審議する法令上の根拠はなく、したがつて、同市議会にはこれについて審理表決する職務権限はなく、いわんや同市議会議長たる被告人に原判示の職務権限はないのに、被告人にその職務権限があると認定した原判決は、法令の適用を誤つたものである、というのである。

ところで、受託収賄罪における職務は、公務員が法令上管掌する職務自体でなくとも、その職務と密接な関係のある行為、すなわち、必ずしも法令上の根拠を有する行為であることを必要とせず、慣行上あるいは事実上所管する行為をも含むと解すべきことについては判例上確定しているところであるというべきところ、元来、本件「市有地」の払下に関する権限は大宮市長の職務権限に属し、同市議会の議決を要しない事項であることについては原判示の説示するとおりであつて、当裁判所もこれを首肯するところである。しかるに、同市長より「市有地」払下に関する追加議案が同市議会の承認議決を求めるために提案され、同市議会においてこれが可決成立したこと、その前後の同市長及び被告人を含む同市議会議員の動向並びに被告人の果たした役割、被告人と木下勘一との間における原判示第一の各金員の授受及びその趣旨等については先に詳細に判示したとおりであり、これらの事実に、被告人の捜査官に対する各供述調書によれば、大宮市の重要な事項については、権限のいかんを問わず、同市議会の承認議決を経る慣行があり、これに基づいて、被告人としても同市議会議長として本件「市有地」払下議案を同市議会の議事として付議することを推進し、同市議会議長たる被告人の主催のもとに同市議会において右追加議案を可決したものであることが認められる。したがつて、大宮市議会は、地方自治法等法令所定の権限のほか、大宮市の重要な事項について同市長から承認議決を求められた案件については、その法令上の根拠や政治的影響力の有無等はともかくとして、対外的に法的効力を有しない事実上の表決をしていた慣行があり、このように市議会が議決機関であることに関連して、事実上所管し、それ自体公務としての性格を有するいわゆる事実上の議決の議事に関して、市議会議長が賄賂を収受すれば、収賄罪が成立するものであつて、所論指摘の判例は、競輪場管理条例により市長の専決とされている競輪場の他市への貸与につき市議会の議決に関して市議会の権限が争われ、結局市議会に職務上の権限がなかつたとする場合であつて、本件と事案を異にするから、これをそのまま本件にあてはめるのは適切でない。そして、これを先に認定した関係事実に照らすと、まさに、被告人は、市議会議長として慣行上の右事実上の議決の議事に関し木下勘一の請託を受けて原判示第一の(二)の各賄賂を収受したものであるから、(なお、本件「市有地」払下議案が同市議会に付議されたのは、前示二〇〇万円が木下から被告人に授与された日以降のことであつたことは明らかであるが、右授受の当時においてその授受が被告人の同市議会議長としての職務権限に属することは前記説明に徴し認めうるところである)、被告人に原判示の受託収賄罪が成立することは明らかであつて、被告人にその職務権限がなかつたとはいえない。論旨は理由がない。

同第一点の三について

所論は、原判示第二の各事実につき、被告人は、大宮建設業協会長矢口林太郎(以下「矢口会長」という)から、同協会所属の建設業者らが大宮市北部土地区画整理組合(以下「組合」という)の施工工事を入札するに当たり、その入札前に、同組合理事長清水貞一(以下「清水理事長」という)より当該工事の概算額の事前内示方を依頼されて、それを実行してやつた際、同協会から清水理事長に対する謝礼の趣旨で同人に対する金員の交付を頼まれて好意的にその金員を同人に届けてやつたものにすぎず、したがつて、贈賄者側の犯行を容易にしてこれを幇助したものであるというべきであるのに、原判決は、採証法則を誤り、これを収賄幇助に認定したのは事実の誤認であり、ひいては法令適用の誤りをおかしたものである、というのである。

しかし、原判決挙示引用の関係証拠を総合すると、原判示第二の被告人の収賄幇助の事実を認定した原審の措置は、優にこれを首肯することができるのであつて、この点に反する被告人の原審公判廷における供述はたやすく措信しがたく、記録を調査し、原審における他の関係証拠を検討し、当審における事実取調べの結果に徴しても、原判決の認定に所論のかしはない。すなわち、原判決挙示引用の関係証拠によれば、被告人は、矢口会長と隣り近所であつて、幼児のときから親しく、また、清水理事長とは同じく大宮市議会議員で自由党系の「五月会」に所属していたことなどもあつて親交があつたものの、同人と矢口会長とは交友のなかつたことから、昭和三九年九月ころ、矢口会長より、「清水理事長に対し、『組合』施工の工事の入札については大宮建設業協会所属の建設業者を入札業者として指名選定し、かつ、入札事前に同理事長より入札予定価格を内示してもらえれば、落札業者から落札工事代金の二歩を謝礼として出させるから打診して見てくれ」と懇請されて、そのころその旨を清水理事長に伝えて、右矢口会長の依頼とそれに対する謝礼金の受領を承諾させ、それらの処理を円滑にするため、自らは、同理事長の行うべき右協会に対する入札予定価格の内示伝達及び右謝礼金の受領、引渡しを引き受けることとして、以後、同理事長は、矢口会長の右依頼にそい、「組合」施工の入札工事については同協会所属の建設業者を入札者として指名選定し、その入札執行直前に入札予定価格を被告人に内示し、被告人はこれを同協会の事務局長と称する浅井こと滝崎章に伝えたところ、滝崎章は、被告人から伝え知らされた入札予定価格を右建設業者らに知らせるなどして入札についての工作をし、同建設業者が「組合」施工の工事を落札すると、その業者から落札工事代金の二パーセントの謝礼金を徴収し、これを被告人に届けて清水理事長にその交付方を依頼したこと、被告人は、その情を知りながら、その謝礼金を清水理事長に交付し、同人からその謝礼金の約四割相当位の金員をもらい受けていたものであつて、原判示第二の各犯行は、これと全く同様の方法で敢行されたものであることが認められる。してみれば、被告人は、贈賄者側と目される同協会、矢口会長、同協会所属の建設業者らの要請を受け入れた清水理事長の収賄の事実を認識してその犯行を容易にする意図のもとに、同理事長の行うべき入札予定価格の内示伝達及び謝礼金の授受等に関与してその犯行を容易にさせたものであることは明らかであるから、まさしく同理事長の収賄の犯行を容易にさせてこれを幇助したものというべく、その結果たとえそれにより贈賄者の贈賄の犯行を容易にさせた一面があつたにしても、それをもつて直ちに被告人の所為が贈賄幇助に当たるものと速断することはできない。論旨は理由がない。

同第三点について

所論は、被告人に対する原判決の量刑が不当に重い、というのである。

そこで、記録並びに原審で取調べた証拠を調査、検討し、かつ、当審における事実取調べの結果をも参しやくして認められる諸般の情状、ことに、被告人は、大宮市議会議員として、また、昭和四三年六月以降は同議会議長として、その要職にありながら、何ら首肯すべき事由もないのに、原判示第一のようにその職務に関し請託を受けて多額の現金を収受したほか、原判示第二のように多数回にわたる清水貞一の収賄の幇助をしたものであつて、その犯行の動機、経緯、態様、結果、社会的影響、罪質等に、被告人の右職責、犯行加担の状況等をあわせ考えると、公的地位、職務を金銭と引換えにした被告人の本件犯情は、はなはだ芳しくなく、被告人が多数の公職につき地域住民のため努力してきたことを勘案しても、その刑責は重大である。被告人がかなりの期間身柄を拘束されたことも加わつて、本件の非を反省し、一切の公職を退き、木下勘一に対し金一、〇〇〇万円を償還して、謹慎の意を示し、更生の意欲もあり、再犯のおそれはないこと、大成正雄らも所論指摘のように木下勘一から多額の金員を借り受けているが、問題提起に至つていないこと、被告人から現金を受領した浅子正三ら市議会議員が何らの処分をも受けていないこと、その他被告人の年齢、経歴、家庭の状況など被告人に有利な又は同情すべき事情を十分しんしやくしても、この種事犯に対する量刑の実情をもあわせ勘案すると、本件は刑の執行を猶予するのを相当とする事案ではなく、被告人に対する原判決の量刑が不当に重いものとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷口正孝 金子仙太郎 下村幸雄)

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